東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1407号 判決 1958年2月08日
第一相互銀行
事実
控訴人(一審被告、敗訴)株式会社第一相互銀行は、被控訴人横山源治(訴外川口工業運輸株式会社取締役)は右川口工業運輸株式会社が控訴銀行の無尽に加入し、落札して負担した金二十四万四千円の債務につき連帯保証をし、且つ訴外黒沢正に被控訴人を代理して本件公正証書の作成を委嘱することを委任したものであると主張したが、これに対し被控訴人は、控訴人主張の事実を否認し、控訴銀行に提出された被控訴人名義の調査申込書は太田儀右衛門(前記訴外会社代表取締役)の偽造に係るものであると争つた。
理由
控訴人株式会社第一相互銀行から被控訴人に対する債務名義として公証人作成の債務弁済契約公正証書の存すること、右公正証書には、訴外川口工業運輸株式会社(以下訴外会社という)が控訴銀行の無尽に加入し落札して負担した金二十四万四千円の債務につき被控訴人において控訴銀行に対し連帯保証をした旨、並びにこれにつき被控訴人が強制執行を受けることを認諾した旨、及び訴外黒沢正が被控訴人を代理して右債務に関する公正証書の作成を委嘱した旨の記載の存することは何れも当事者間に争がない。
よつて被控訴人が右連帯保証債務を負担したか否かについて按ずるのに、証拠を綜合すれば、訴外会社代表取締役であつた訴外太田儀右衛門は、昭和二十七年十月頃自己の車輛購入費等に充てるため金策の必要に迫られたので、訴外会社名義を以て控訴銀行の無尽に加入し金二十万円を落札した結果、控訴銀行に対し金二十四万四千円の弁済義務を負担したこと、しかして右太田儀右衛門は右債務につき、かねて懇意であり、訴外会社の取締役でもあつた被控訴人を連帯保証人に立てようと考えたが、被控訴人にその承諾を求めることをしないで、訴外会社の事務員を被控訴人宅に遣わし、訴外会社から陸運局に差し出す書類に被控訴人の印を必要とする旨の口実を構えて被控訴人からその実印を借りて来させ、これを利用して被控訴人名義の調査申込書を作成して、控訴銀行に提出し、更に同印を利用して川口市役所から被控訴人名義の印鑑証明書の交付を受け、また被控訴人名義の公正証書作成に必要な委任状を作成し、これらの書類を控訴銀行に提出したこと、よつて控訴銀行は右書類により訴外黒沢正を被控訴人の代理人として、被控訴人が訴外会社の前示債務について連帯保証をした旨の本件公正証書の作成方を委嘱したことを認めることができる。
以上に認定した事実によれば、被控訴人は控訴銀行に対し訴外会社の前記債務について連帯保証をしたことはなく、また訴外黒沢正に対し本件公正証書作成について代理を委任したこともないものといわなければならない。従つて被控訴人は本件公正証書に基いて強制執行を受けるいわれがないから、被控訴人が本件公正証書たる債務名義の執行力の排除を求める本訴請求は正当であり、これを認容した原判決も相当であるとして、本件控訴はこれを棄却した。